タイトルからして逆のことを言いたげです。
そうなのですが。

ペレットストーブ = 電気がないと使いようがないシロモノ(いざという時役に立たない)

だけで話が終わってしまうと、肝心なところの検討をスルーしてしまうと思います。と、書き始めたら、気合が入ってしましまして、既に修正何回になったかな?というくらい書き換えました。

ストーブをご検討中のお客様と話していてよく質問されるのがタイトルの件です。質問が挙がる流れとしてはこんな感じではないでしょうか。

  • ペレットストーブは電気を使うので(震災後などの)停電時には使えない
  • 薪ストーブは電気を使わないので停電しても使える
  • 停電時を比べれば薪ストーブにメリットがある

これ、正しいとも正しくないとも言えないと思います。

311震災でまだ寒い時期の震災を経験した北関東では、当然あがる質問かと思います。

停電が数時間以上続くような震災後、ということでしたら、屋内でストーブを使うこと自体に慎重であって欲しいと思います。余震があるからです。熊本の震災では、当初は余震とされた後から起こった地震が本震と変更されました。大きな余震が続く可能性のある段階で、屋内で火を焚くことは、ペレットストーブか薪ストーブか、電気を使うか否かに関わらず慎重でなくてはならないと思います。

311震災後、携帯電話が余震の「緊急地震速報」を受けて、頻繁に鳴っていたあの状態を思い出すと、やはり慎重であってよいかと思います。あの音を思い出すだけでフラッシュバックがあるのであまり思い出したくありません。私の場合は、余震そのものよりもそれによる原発の停止作業の中止とクラッシュが怖くてたまりませんでした。

停電がどのくらい続くのか?という点についても考えてみましょう。

短期間・短時間の場合は?

「温かい格好をしてしのいでください」が一番安全なような気がします。

当方では、ペレットストーブを設置いただく際に、灯油ストーブ(多くは開放型:燃えている部分が露出している形式のもの)をお持ちの方には処分しないようにお勧めしています。短期間でしたら灯油ストーブを使うのもよいかもしれません(うちも納屋に1台あります)。バックアップは大事です。私も共感し、一部実践している「パーマカルチャー」の原則に「重要機能のバックアップ」があります。パーマカルチャーセンタージャパンのホームページにて紹介されていますので、ぜひ参照してみてください。他の項も参考になりますよ。私は日本の社会はその基盤が弱いと感じているのですが、それはいろんな意味でのバックアップのなさに由来していると考察しています。ペレットストーブを含む木質エネルギーも石油や原子力に頼り切った社会に対し、広い意味ではバックアップになる営みなのだと思います。まぁ、こうした話題に突っ込んでいくのはほどほどにして本題に戻ります。

余震が続く間、開放型のストーブのリスクは、(重量があって、しっかり固定している)ペレットストーブや薪ストーブに較べて大きいはずですので、その点にご留意ください。

地震以外の停電で考えますと、日本は世界でも有数の停電が少ない国です。電力会社の努力とも言えますし、総括原価方式によって膨大に設備にお金をかけて来れたから、とも言えます。たぶん両方ですが。
滅多にない短時間の停電時に使えないことに対し、電気を使うことで得られるペレットストーブの優れた機能、高度な制御を天秤にかけるのは、私はどうかな?と思います。マイコンやセンサーで適切な燃焼を維持し、安全装置を機能させるには”電気”は必須です。滅多にない事態との両立を図るために電気を放棄するのはそ、それはあまりにもったいないです。別の手段であってもよいのでは?と思います。

停電が長期に渡る場合

この事態でペレットストーブが電気を使うことを問うても意味がないように思います。
地震後に通電が回復しない、というのはどういう事態でしょうか?そのような事態ですと、地震発生後に避難生活を余儀なくされているのではないでしょうか。少なくともどんなストーブだとしても大地震で大きな衝撃を受けた家屋でそれを使用して過ごすのは大きな危険が伴います。余震で倒壊する可能性がありますし、震災後にストーブで問題になるのは煙突の外れ、ずれが多いです。被災した住まいに戻るには、専門機関が巡回してチェックし、玄関先にラベルを貼っていきます。その前であれば家は空けている?

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避難所の屋外で使用されていたため、鋳物の扉がサビサビのSS-1(初期型/さいかい産業)

311震災後は、東北の避難所にさいかい産業ほかのペレットストーブが随分貸し出され、活躍した実績があります。設置も取り扱いも楽です。

少し話は変わりますが、感震装置を搭載しているか否か。その効果について実態にそぐわない過信や誤解があるように感じています。

感震装置はだいたい震度4以上で働きます。ペレットの投入が停止され、消火のプロセスに入ります。ペレットストーブは重い機種が多い上に本体とつながる排気管が壁に固定されているので、実際のところ震度4、震度5くらいではびくともしません。数ミリも動かないはずです。

震度6、震度7になってくると話は変わります。
震度7ですと、もう、感震装置があろうがなかろうが関係ありません。瞬時に家が潰れてしまえば、火が残っていれば燃え移る可能性はあります。この点に感震装置を過信する危うさがあると思います。火災に至るリスクが軽めの軽中度な地震では火が消える一方、巨大地震では機能するとは言い切れない。瞬間的に発火点以下まで冷却するわけではないのです。感震装置に頼るよりも粉末タイプの消化器を常備しておく方が、他の用途でも使えますし確実でしょう。
即時停電に至るような地震でしたら、ファンが止まってしまうので感震装置の意味はなく、ドラフト(煙突内の上昇気流)を起こして自然に排気できるような排気経路にしておくことが意味を持ちます。

輸入機種には感震装置を搭載していない機種が多数ありますが、このような理由から私は絶対に不可欠の機構だとは考えていないのです。

もし倒れた場合は、火種がこぼれていれば地震が収まってから消化器を。こぼれていなければ、同じく地震が収まってから、火傷をしないようにしつつ、立てられるようであれば立てた方がよいかもしれません(余震で再び倒れる可能性があり、煙突が外れていると固定がなくなってますので、”絶対にこうした方がよい”というものではありません)。高温部との接触で、時間が経ってからフローリングなどから発火する可能性があるからです。(くれぐれも水はかけないように。これは常識として!)消化器だけにした方がよいか、今後各メーカーの見解を確認します。

煙突が外れたとしても、それだけでは火災に至る可能性はほぼありません。
(煙が漏れても燃料タンクのフタは閉めたままで!)
電気が止まればペレットの供給も停止しますので、排気温度は急速に下がります(元々200℃を越える排気はまれです)。ファンが止まっていたとしても20分くらいでほぼ完全に消火します。通電があれば5分です。薪ストーブだと長くかかる場合は何時間も火が残りますが、短時間で燃え切るペレットストーブは、実は地震には比較的強いかも?、と考えています。燃えている部分も、燃焼ポット/グレートと呼ばれる箇所にある、少量のペレット溜まり分だけです。燃えているペレットの重量にして、多くても50gでしょう(一時間当りのペレット使用量は400g~多く見積もって1500gですから)。薪の熾がkg単位であるのに比べ、ペレットの場合はストーブ内で火がついている重量は常時ごくわずかなのです(蓄熱部もあります)。

ペレットストーブは電気を使うといっても、ほとんどの機種は100kw以下程度(着火時は300wくらい×数分)。機種によっては実測で20wを下回ります。

それであれだけの利便性と高度な制御を実現しているわけですから、“電気を使う”ことへの疑念は、どちらかというと“印象”に依っているのではないか、と思います。

ところで。

ヨーロッパの大規模なペレットストーブ、薪ストーブの展示会では機種数でペレットストーブが上回り(2014年以降)、そして電気を使って制御する薪ストーブがどんどん登場していることは、日本ではまだ余り知られていないでしょう。

海外と日本の情報格差は時に意図的に、もしくは正確な情報不足から意図せずに使われますので、賢く見極めていただければと思います。

以前から主張しているとおり、
ペレットストーブは薪ストーブの代品ではなく、(必ずしも)安いわけでもない。優れた木質燃料として新たに登場した”木質ペレット”のみを使う、新しいジャンルの暖房機器だ、という点。ペレットは圧縮してあるので密度が高く(つまり発生する熱量が大きく)、ハンドリングにもたいへん優れ、そのメリットは多面的です。薪がいいんだ、ペレットが優れているんだ、という議論は生産的ではないので好みませんが、ペレットに対する時に不当な評価が今もある(※)と感じているもので、その点については、じわじわと変えていきたいと思います。

更に突っ込んで考えてみたい方には専門誌『薪ストーブライフ』の論調の変化を読み取っていただければと思います。

ちなみに私は薪ストーブも少しですが施工しています。今後はそちらにもかなり力を入れることと決めています。
こと災害時ということでしたら、住宅に設置した薪ストーブよりも、屋外で使えて、軽くて持ち運びできて設置片付けが簡単なホンマ製作所の時計ストーブやかまどに軍配が上がるでしょう。実際、災害時はいつも活躍していますね。うちでも時計型を一台常備しています。

ここではペレットストーブに寄せられるご意見、ご質問への見解としてまとめたものなので、どれが決定的に優位だ云々を主張するものではありません。 了

※これには、私たち業者側のビジネスモデルの未成熟、技術の未達、同様にメーカー(技術においても)の責任もあり、招いてしまった面もあると思っています。