排気筒の仕様を変えると煙突効果がどのくらい変わるのか?
理論式でシミュレーションしてみました。

煙突効果の理論式

TeXで数式書いて画像にしてみましたが、面倒なので。。。

それぞれの意味するところはWikipedia見てください。

日本製のペレットストーブでは、現状は給排気二重管が採用される場合が多いです。これは欧州のストーブ煙突の状況とは異なります。発展の経緯が異なるので。

さいかい産業、シモタニは、いわゆる 1175管、

豊実精工、西村精工は、 いわゆる 1280

を採用しています。

※豊実精工、西村精工はともに欧州製規格排気筒Φ80mmシングル管を接続できるアダプター有り。

ここで「1175」とは、

外径 110mm、内径75mmの給排気二重管のことです。

二重管の外側が排気、内側が給気の2層構造になっています。

それで、

何を計算してみたか、といいますと、

1 長くした場合
2 断熱した場合
3 径を大きくした場合

これらについて、煙突効果の理論式に値を入力してみました。

ただそれだけ。

以降、「煙突効果」を、厳密には違う意味ですが面倒なので「ドラフト」と呼びます。ドラフトは温度差によって生じる上昇気流のことで、それによってもたらされる効果が煙突効果なのですが、以降は普段の私が使っている言葉におきかえて「ドラフトがつええ」などと使いますが許してくださいね。

実際には抵抗があったり、排気が冷えたり、結露が起こったり、シミュレーションだけではわかりません。

図にプロットしてみました。

「図が適切ではない!」と技術系の方は怒らないでくださいね。とりあえずなので。

No.1がコントロール(比較用の基本形)。屋外での900mm立上げで設定しています。No.1から15まであります。

条件は次のとおりです。

・外気温度は「5℃」とし、寒冷地では「-15℃」とした。
・排気温度(煙突内の平均温度)を「150℃」とした。断熱を強化した排気筒では「180℃」、弱くした場合は「120℃」とした。
・排気筒の長さはコントロールが「1m」。それを長尺化し、「2m」、「5m」とした。
・径の拡大(薪ストーブ業界では“インチアップ”と呼びます)は、「75mm」、「80mm」、「106mm」、「150mm」とした。
・流量係数は0.65としたが、変化率で評価しているのでキャンセルされる。

図を見ても、
どれがどれだかわかんねえよ!

ま、こんな計算やってみている、ということで現時点ではお許しください。っていうか、興味のある方は計算は簡単ですからぜひ自分でやってみて。いちおう下の方にNo.と内容の一覧つけときました。

理論式に数字を入れただけですが。。。

しかし、計算結果は実際の観察結果と符号しますよ。これ。

Φ100mm前後の断熱煙突で屋外1m立上げ。これがいいんじゃね?

薪ストーブの6インチ煙突につないで屋根貫通させる場合は、ドラフト効きすぎるんで給気か排気のどちらかにダンパーあった方がいいんじゃね?

などが想像できます。

ストーブから排気直後の風速を実測してみますと、だいたい 3.5m/s くらいの機種が多いようです。この値を参照しながらメンテ時に詰まりの状態を推測することがあります。今回の試算結果では、Qの単位は m3/s で、体積ですが、煙突の断面積で割れば流速がわかります。そこから、「なるほど、ドラフトで排気ファン同等の効果を生み出すためにはこのくらいの仕様か」などの想像が働きます。
上記で薪ストーブ煙突へのインチアップに触れていますが、実際、ドラフトが強すぎて燃焼皿からペレットが吹きこぼれたり、過燃焼気味になっていることを観察したことがあります。排気ファンの回転数を下げて調整します。
こうしたケース、ドラフトが強くなりすぎても排気ファンのフィンが逆に抵抗になるようで、理論値ほどの引っ張りにはなっていないように感じます。このあたりのことも理論と実測を照らし合わせるとはっきりしてくるかな?と期待を膨らませています。

面倒なことは注釈に回したいのですが、ちょっと補足しておきます。

100mm径にすると理論上はドラフトが強まりますが、排気が触れる排気筒表面積が増えるため、経路を通過している間に冷えやすくなります。そのため断熱性を強化しないと結露の可能性や冷えることでのドラフトの弱まりなども考えられ、実際の煙突効果はそれらの複合的な影響で決まるはずです。理論式の結果を元に単純に、「こうすればいい!」とは断言できません。実証実験をしながら考えていく必要があります。

今回はとりあえずは、煙突で「冷える」ことは想定せずに話を進めます。

計算結果をみますと、ざっくりですが、下に列挙した効果が期待できそうです。

・径の拡大がえらい効く。
・長尺化と断熱化はそれほどでもなさそう。
・外気温の影響も、計算した範囲くらいだとそれほどの影響でもなさそう。

これらの結果ですが、理論式をみると何となく想像つきます。

「径」は積で効く。しかも「面積(A)」の積だから「径」の2乗で効く。「長さ」と「温度差」も効くけど、平方根なので減じて効く。

ざっくりですが、75mmを106mmに拡大するだけで、ドラフト100%増の計算結果です。倍に強まる、ということです。

では、なんでこんな計算をしてみたか、という背景ですが、

ペレットストーブメーカーでは排気筒の長さや曲がりの数の規定を設けているのですが、変更を加えた場合にどの程度、正なり負の影響があるのか?これを問い合わせても具体的な数字が出てこないのです。経験則から「この仕様の範囲なら問題ない」という保証であって、もしかしたら、もっと適切な仕様があるんじゃないの?と私は考えているわけです。

数を経験していくと、北側設置しかできないような場面があります。排気が北風に押されて排気不良を起こすので、屋根上まで排気トップを伸ばして風の影響を減じたり、その他の理由で特殊な施工をしなければならない場面も出てきます。通常、メーカーでは北側設置はNGです。

そうした事例の、調子がいいんだな。これが。

排気筒内の汚れが少なく、灰の詰まりも少ないなどの結果を観察するケースが複数あるわけです。

写真は、北側設置、1175管を1280管に拡大して屋根上まで伸ばした事例です。ブラシを下から入れて掃除した際に1m以上上くらいからは付着がほぼなし、です。ストーブはシモタニEM-Ⅱ、トップはドラクリです。

よりベターな排気筒設置がありえるのであれば、メーカーの規定に加えて欲しいと思うわけです。メーカーも実感はしていても、費用や難易度の高まる基準を加えるのに躊躇があったりします。

次の写真は、メーカーの規定からみたら微妙な、”状態の良い”排気筒・煙突設置の例です。

それで、

「排気筒を5mに伸ばして燃焼テストやってみません?断熱化したりして。実測してみましょうよ!」

と業界のいろんな場面で話をしていたら、

「ぜひうちでやってみたい!」と、さいかい産業の古川さんが提案に乗ってくれまして。

実証実験の準備に入りました。

ほかのメーカーさんもこうした検証をやってくださる場合はなにかご協力できることがあれば、と思いますのでぜひご一報ください。

追記しますと、

EN(欧州規格)の条件と違うじゃないか!とか、日本ペレットストーブ工業会で取り組んでいる排気筒基準の策定と関係ない試験じゃないか!などの視点がないわけではないのですが、今回は単純に現行の排気筒をちょろっといじってみて、実際どうなのよ、というあたりを確認してみようとの実験です。

屋根上まで伸ばす排気筒基準をメーカーの推奨に入れてもらえると、「このケースではこうした方がよさそうなんだけどな」といった場合にお客様に勧めやすくなりますし、加えて実証研究の裏付けがあればなおよし、です。

そういうわけで。

近々、さいかい産業さんで実験が行われる、可能性大。

結果は、「なんだ。今の基準から外れるとよくないじゃん」となる可能性もありますよ。

それでもいいんですよ。エビデンスが大事です。また、これまでこれでよかったんだからこのままでよい、ではなくて、裏付けをもって議論をしていくことが大事なんじゃないかな、と。

上で「冷え」については、シミュレーションできないことはないのですが、今回は計算していません。理由は、排気がどの程度冷えるか今回のテストで計測する予定だからでして。出口直後と排気トップでどれだけ温度差があるかわかれば、ドラフトに与える影響が簡単に計算できますので。またこの実測は、シミュレーションではわからない、結露起因のトラブルの予想にも役に立つはずです。

以下ご参考

図の No. 一覧

1コントロール 1m、断熱なし
2断熱化
3排気筒5m
4排気筒5m、断熱
5排気筒2m
6断熱が無い
7断熱なしで5m伸ばした場合
8ドラフトがまったく効かない場合(排気筒内外の温度差ゼロ)
9インチアップ Φ106 で 5m
10寒冷地
11寒冷地、インチアップ Φ106 +断熱化
12長さ同じ、インチアップ Φ106 のみ
13長さ同じ、インチアップ Φ106 、断熱
14少しインチアップ(Φ75を80に)
15大きくインチアップ Φ150 、断熱化、長尺化(薪ストーブ仕様の煙突につないで屋根上まで延長を想定)

煙突効果

・『建築設備基礎』木村建一(1970)
絶版後、クリエイティブ・コモンズとして2009年に公開されている。
お勧めです!技術屋必読!!

・「煙突効果」については上の文献を元にWikipediaにて詳細あり

・薪ストーブ煙突でのシミュレーションは「東京ストーブ」さんのブログに事例あり。

・煙突からの熱の放散に関する理論式
八光電気ホームページ

※放熱はドラフトの低下につながるので重要な要素である。今回は各仕様での放熱量も実測する。

上記、東京ストーブさんのブログではこの理論式から放熱量を計算している。

なお、放熱量は特に断熱性の弱い排気筒では周囲の風速で大きく変わるはずである。